はじめに
小さな頃から探偵小説や推理小説が好きでしたので、短編ですが執筆してみました。
どうぞ、お楽しみください。
伯母の家
謎を解く
ご褒美
お坊《ぼっ》ちゃま探偵《たんてい》 花房《はなぶさ》あきら君
大空まえる
伯母《おば》の家
北鎌倉《きたかまくら》は春です。
岡山生まれ、岡山育ちの花房《はなぶさ》あきら君は伯母の家へ遊びに来ているのです。
小学六年生を迎《むか》える春休みのことでした。
湘南《しょうなん》の風は、爽《さわ》やかです。
今日は江ノ島で子供探偵大会《こどもたんていたいかい》があるので伯母と一緒《いっしょ》に行ってみる予定になっていました。
あきら君は起きると直ぐに雨戸を開けます。
気持ち良い朝です。
庭の芝生が清々しく、小鳥の鳴き声が心地よく聞こえています。
伯母は一人暮らしなので朝食は伯母が作ってくれるのです。
おいしい味噌汁でした。
地元のテレビ放送で今日の子供探偵大会のことが報じられています。
毎年行われている恒例のイベントなのです。
伯母はお洒落をしていました。
あきら君も準備OK。
さあ、出発です!
伯母の車は白のスポーツタイプで、その運転は華麗《かれい》でした。
海岸沿《かいがんぞ》いの道を風に吹かれながら進んでゆくと、やがて江ノ島です。
そして橋を渡ります。
広場が会場になっていました。
朝から大勢《おおぜい》の親子連《おやこづ》れで賑《にぎ》わっています。
あきら君たちも、それに加《くわ》わりました。
子供だけでは危《あぶ》ないので保護者同伴《ほごしゃどうはん》が原則《げんそく》なのです。
ヨットハーバーには沢山《たくさん》のヨットが並んでいます。
岩場《いわば》の方では釣りをしている人も多いのです。
江ノ島神社の参道も賑《にぎ》わっていて、土産物屋《みやげものや》が活気《かっき》づいています。
饅頭《まんじゅう》の蒸籠《せいろう》が湯気《ゆげ》を吹《ふ》いていました。
「お集りの皆さーん!
朝早くからご苦労様です。
おかげさまで子供探偵大会も今年で50回目を迎えることができました。
これも偏《ひとえ》に皆様方の謎解きに対する情熱の賜物です。
今後ともよろしくお願いいたします。
さて、今年の暗号は皆様のお手元に前もってお届けしたものでございます。
この三日間で謎は解けましたでしょうか。
どうぞ宝の鍵を見つけてください。
もちろん、それは、この江ノ島のどこかにあるのです。
ご検討をお祈りいたします。」
また、これを読んでいる皆さんも先へ読み進める前に、ぜひ、今から三日間のうちに暗号を解いてみてください。
難しいと思いますので、大人の人に相談しながらがいいでしょう。
これが暗号です。
10000=036
2776 94135 24164
以上です。
謎を解く
さて、読者の皆様。
暗号は解けましたでしょうか。
そうとう難しい暗号だと思います。
結局、この暗号を解いた人はいなかったのです。ただ一人、花房あきら君を除いては。
「ご来場の皆様。
この暗号を解いた方が、お一人だけ、おられました。花房あきら君です。
あたたかい拍手をお願いします。
それでは、この謎を解いた道筋を説明していただきましょう。どうぞ・・・・・。」
そこで、あきら君は語り始めました。
「この謎を解く鍵は、最初の数列にありました。10000=036です。
一万=036ですが、これを、どう解いたらいいのか・・・。036はオサムと読めるではありませんか。一万=おさむ、です。
マンは、おさむ、です。
マンはオサム。あるいは、まんがおさむ。
そうなのです。漫画おさむ、と読めるではありませんか。漫画おさむ、と言えば、文字通り漫画の神様とまで言われている手塚治虫先生のことに違いないのです。手塚治虫先生と言えば、その代表作は、もちろん鉄腕アトムでしょう。そして、鉄腕アトムというのは何を意味しているのでしょうか・・・・・。アトムといえば原子。そこで、暗号の数列を解く鍵となる物は何か、と思ったときに思い浮かぶのは、元素の周期表だったのです。
やってみましょう・・・・・。
2と7の交わったところはRa。7と6でRe。つぎの数列は、9と4でCo。1でh。3と5でy。そして次の数列は、2と4でCa。1でh。6と4でCr。
RaRe。 CoHY。 CaHCr。
これでは何のことか、さっぱり分かりません。
ただ、RaReはレアと読めます。
そうなのです。二番目と三番目の数列は解き方が間違っていたのです。
9と4でCo。次が1ではなくて、13と5なのです。すると、In。
三番目は、2と4でCa。16と4でSe。
これなら意味が通じます。
Coinでコインです。Caseでケース、箱です。
レアなコインケース。珍しいコインケースです。江ノ島でコインケースと言えば、江ノ島神社のお賽銭箱でしょう。しかも、珍しいものとなれば、巾着の形をしたお賽銭箱があるではありませんか。そうして、無事に宝の鍵を見つけることができました。以上です。」
広場へ集まっている人たちは、ただただ感心するばかりでした。
ご褒美
お昼は伯母と共にしらす丼を食べたのでした。
江ノ島では釣りを楽しむこともあります。
どういう訳か、橋のたもとでは黒鯛の子供が群れていて、それを、チンチンと呼ぶのだそうですが、けっこう楽しめるものです。
夕食には、畳いわしが出ましたので、それを細かくほぐして、ご飯の上へまぶし、お湯をかけていただきました。
おわりに
長い間、藤沢に住んでいましたので、江ノ島は懐かしいのです。今は岡山県の玉野市で執筆しています。
ありがとうございました。
著者 大空まえる
えいめいワールド出版